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産業看護師という職種をご存じでしょうか?企業看護師とも呼ばれており、看護師の新たな働き方として注目されています。
看護師の職場は病院や施設が一般的ですが、「産業看護師」は企業で予防看護に従事する看護師を指します。企業にとっても、予防医療や働き方改革の観点から社員の健康管理への意識が高まっており、産業看護を重要視する職場が増えています。さらに、新薬の研究開発に欠かせない治験を医療機関と協力しておこなっている企業もあり、治験コーディネーター(CRC)や、臨床開発モニター(CRA)などで活躍している看護師も多数います。
今回はそんな産業看護師の働き方やメリット・デメリットを紹介します。
「産業看護」とは、事業者が労働者と協力して自主的に行う、個人・集団・組織への健康支援活動のことを指します。
企業の健康管理は労働衛生の5管理に則って行われています。(作業環境管理/作業管理/健康管理/総括管理/労働衛生教育)この5管理がどれかひとつでも欠けてしまうと労働衛生は保てなくなります。
労働衛生対策を効果的に進めるため、産業看護師は事業者・労働者の間に立って健康と労働のバランスをとり、安全な労働が実現できるようサポートするのが仕事といえます。
事業者が労働者の健康管理に積極的に取り組むことは、厚生労働省「THP指針の解説」から、「労働生産性の向上」「労働災害件数や休業日数の減少」「メンタルヘルスの改善」などのメリットがあることが示されています。今後もますます産業看護師の活動が重要となります。
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次に、産業看護師のメイン業務をご紹介します。産業看護師はおもに企業内の健康管理部門や医務室、健康管理室など、社員の健康管理を行います。
■健康診断
重要な役割の1つが社員への健康診断の実施です。生活習慣病やメタボリックシンドロームの予防、疾病の早期発見・重症化予防のためにも、定期的な健康チェックは欠かせません。産業看護師は実施の企画から、当日の技師のサポート、実施後の社員への保健指導までを担う中心的な役割を果たします。
■健康に関する集団指導
保健指導は、予防医療においてなくてはならない業務です。通常時の健康相談を実施したり、過度なアルコール摂取の危険性や喫煙についての集団指導を行ったりします。何年も働いている労働者に対しては、過去の健康診断のデータなども使用しながら指導を行います。身近に健康について相談できる看護師がいることは、労働者にとっても心強く、体調に不安がある際の相談相手としても重要です。
■社員のメンタルヘルスケア
令和2年度の「労働安全衛生調査」によると「現在の仕事や職業生活に関することで、強い不安やストレスとなっていると感じる事柄がある労働者の割合は 54.2%」と、メンタルヘルスに支障をきたす社員が半数を超えていることが現状です。
それに伴い、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所は61.4%と、平成30年度より2.2%増加しています。平成27年12月からは定期的に労働者のストレス状況の検査及び不調のリスクを低減させる目的の「ストレスチェック制度」が義務化され、労働者のメンタルヘルス改善はますます注目されています。
産業看護師は、事業者と協力しながら環境チェックやストレスチェックの実施、ストレスマネジメントの方法を指導するなど積極的な取り組みを行っています。
■■他にもある!
■■治験コーディネーターや臨床開発モニターのお仕事
企業で働く看護師の仕事は他にもあります。治験コーディネーターは、治験計画の把握からその準備、スケジュール調整や被験者対応・治験サポートなどを行います。臨床開発モニターは、治験に関する契約確認やモニタリング、症例報告書(CRF)のチェックや回収など治験終了までの諸手続きなどを行います。その他、コールセンターでの健康相談受付や緊急時の状況確認等を実施するオペレーターのお仕事もあります。
看護師は主に病棟やクリニックに勤務し、病気やけがをした患者様の診察補助、および療養のサポートを行います。その点、産業看護師はおもに企業内の健康管理部門や医務室、健康管理室など、社員の健康管理を行います。「病気、けがの治療のケア」はもちろん「予防医療」にも携わるケースがあります。
企業で働く医療従事者と聞くと保健師を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。厳密には保健師の役割は「予防医療」が中心であり、看護師の役割は「病気、怪我の治療やケア」という違いがあります。
しかし実際には、産業看護師の業務と保健師の業務に差異はない企業が多いようです。産業医の指示の下であれば、産業看護師も保健師も業務に支障はなく、保健師でも怪我の治療に当たることは少なくありません。
企業によっては健康管理部門と診療部門が分かれていることもあり、診療部門では産業看護師が採用されやすい傾向にあります。
産業看護師の平均年収は約300万‐500万ほどで、求人によっては病院勤務の看護師の方が高いこともあります。しかし、保健指導経験のある看護師は優遇され、未経験の看護師に比べると給与も高めに設定されます。産業看護師の活動の場は大企業が大半であり、給与形態は企業に準ずることが多く、病棟看護師よりも昇給額が大きいです。
夜勤がなく、ほとんど残業もない職種であることを考えると、収入と仕事のバランスが取りやすいといえます。
産業看護師への転職を検討している方は、産業看護師のメリットやデメリットを把握しておきたいですよね。1つずつ見ていきましょう。
<メリット>
■体力的負担が少ない
産業看護師はデスクワークが中心であり、体位交換や排泄介助を行う病棟看護師と比べると体力的負担は少ないといえます。そのためワークライフバランスを考え、将来にわたって長期間働くことができる点が魅力です。
■夜勤がなく土日休み
夜勤業務がないことも産業看護師が人気な理由の1つです。ライフステージの変化により子育てや介護が必要となった場合、看護師にとって夜勤は負担になることも多いです。その点、企業の休日は基本的に土日祝であり、家族に合わせて土日に休みたいママさんナースにはとても働きやすい環境です。
■医療的なケア、処置が少ない
病院で働く看護師の中には、患者を看護する責任を負担に感じる人もいます。産業看護師の業務は予防医療が中心であり、病院のように疾患を持っている方の看護が少ないのもメリットといえそうです。
しかし、健康診断の採血や傷病者が出た際の対応など、基礎的な看護の知識と経験は必須です。
<デメリット>
■看護以外の業務に時間をとられる
産業看護師の職場は企業にあたるため、メールの返信や資料作成といったデスクワークも業務の一環です。ITリテラシーやパソコンスキルを求められる場面も多いでしょう。どうしても医療処置を行う機会も少なくなるため、看護業務がしたい人には不向きの可能性が高いです。看護にまつわるスキルを中心に習得したい人は、他の選択肢も検討してください。
■相談できる相手が少ない
産業看護師の配置は各企業で1~2人と少ないことがほとんどです。わからないことがあっても、質問できる先輩などはいないため、産業医に相談するか自分で判断する必要があります。
申し送りや連携部署もありますが、予防医療や指導スキルを身に付けておく必要があるでしょう。
■非公開求人が多く、自分では探しにくい
産業看護師の求人は数が圧倒的に少ないため、求人が出てもすぐに候補者が入ってしまい、自分ではなかなか探しにくいです。看護師転職サイトでも、倍率が高い求人や新規の求人は非公開となるケースがあります。サイトへ登録している看護師へ優先的に案内がいくことが多いため、転職を考える際は看護師専門の転職サイトへいくつか登録しておくと転職への近道となりそうです。
続いては、産業看護師として働くために必要なスキルや資格、向いている人などを紹介します。
<必要なスキル>
■ビジネスマナー、パソコンスキル
研修資料や検診結果をまとめるなど病棟看護師はあまりなじみのない業務が多く、表作成スキルやプレゼンテーションスキルが必要になります。WordやExcel、PowerPointなどは使用頻度が高いためあらかじめ使えるようにしておきましょう。また、メールの返信には企業ごとにルールやマナーが存在するため、一通り覚える必要があります。
■スケジュール管理能力
社員との面談や集団指導など、日々業務が変化する産業看護師にとって、スケジュール管理や時間管理は大切であるといえます。社員は仕事の合間に面談にくることが多いため、部署ごとの出勤体制やイベントにも心を配りましょう。健康診断など社員全員が参加するような催しがあるときには、スケジュールにも臨機応変に対応できる力が求められます。
■指導力やコミュニケーション能力
産業看護師は、メタボリックシンドロームや生活習慣病のリスクが高い社員へ指導する必要があります。「自分はまだ大丈夫」と考えている社員もいるため、リスクを自覚してもらえるよう、まずは関係性を築いていきましょう。栄養指導や通院の後押しも大切な業務の一つです。予防治療に対して病院勤務で得たスキルをどう発揮できるか、自分なりに工夫が必要です。
<必要な資格>
産業看護師に必要な資格は看護師免許以外には特にありません。しかし、習得によりスキルアップを期待できるおすすめの資格を紹介します。
■労働衛生コンサルタント
労働者の衛生水準の向上と産業保健を学び、事業所の衛生管理の観点から、労働者の健康を守るのが労働衛生コンサルタントです。厚生労働省が管轄する国家資格であり、合格率は約3割と低めです。受験に当たっては公衆衛生の実務経験が3~10年ほど必要となります。
■産業カウンセラー
日本カウンセラー協会が認定する民間資格です。主に「メンタルヘルス対策」について講座や実習を通して学びます。受験するためには養成講座を修了するか大学院で所定の過程を修了する必要があり、養成講座は約30万円の受講料がかかります。
■禁煙支援士
禁煙をサポートする禁煙支援士は、禁煙についての支援方法や知識を学べます。初級~上級の3つのコースがあり、それぞれ講習への参加点を満たし、試験に合格すると取得できます。禁煙治療は本人だけでは難しいため、専門的な知識を持つ看護師に相談できる環境があると、本人も安心して禁煙に望めるでしょう。
■他部署の垣根を超えコミュニケーションが取れる人
産業看護師に向いているタイプには「コミュニケーション能力が高い人」が挙げられます。指導や面談で人と接することが多い職業です。そのため相手に寄り添いながらより良い方向へサポートする必要があります。一方的にやってほしいことを伝えるのではなく、相手の事情や考えも聞きつつ、根拠のある説明をして納得してもらうことが大切です。
■日々アンテナをはる勉強意欲が高い人
また、「勉強意欲が高い人」も産業看護師に向いているでしょう。医療技術は日々発展しており、より苦痛なく検査が受けることができたり、治療に助成金が出たりするなど、さまざまな状況の変化があります。相談者の立場に立った提案や案内をするため、常に最新の情報を把握しておきましょう。
産業看護師は企業への就職となるため、なぜその企業を選んだのか、自分が貢献できる点や入社後にやりたいことなどアピールできるポイントをしっかり考えておきましょう。
また、産業看護師は人気の職種です。そのため、自分の経験を交えながら他看護師との差別化が図れる履歴書や職務経歴書を作成する必要があります。産業看護師について学習済で、臨床経験も長ければ即戦力として認めてもらえます。
看護師転職サイトのアドバイザーは、転職サポートの経験や就職後の声から産業看護師の業務について熟知しています。非公開求人が多いのも産業看護師の特徴であり、看護師転職サイトを上手に活用していきましょう。
<志望動機例文>
■例文1:予防の大切さを伝えていきたい
私は内科病棟で5年間働きました。気づいたのは、生活習慣病の患者さんと接する中で、「もっと若いころに自分を大事にしておけばよかった」と後悔する方が多いことです。日々忙しく業務を行っていると、自分の体の声に耳を傾ける機会も気づかないうちに減っています。御社は人間ドックの助成など産業保健への関心が高く、社印の健康を考える取り組みを日々されていると感じます。私は産業看護師の業務を通し、御社で働く社員皆さんが自身の健康を考える機会を増やし、予防の大切さや具体的な方法について伝えていきたいと考えています。
■例文2:メンタルヘルス対策がしたい
友達や後輩がうつ病になってしまい、やりたいことができなかったり、働きたいのに働けなかったりする現状を見てきました。職場でのストレスも一因であると知ったため、産業看護師として、社員の皆さんが気軽に健康について相談できる環境をつくりたいと考えています。臨床看護師として多くの方の悩みと向き合ってきたからこそ、相談者に寄り添いしっかり傾聴できると考えています。
■例文3:外来での学びを活かしたい
外来で働いているとき、受診や内服を中断してしまう方が多いことが大きな課題であると感じていました。外来の受診時間は短く、なかなか指導が行うことが難しいです。病気になってからではなく、病気を予防する仕事に携わりたいと考えるようになりました。産業看護師の役割は、受診状況の確認や内服管理の指導を早くから継続的に実施し、社員の健康を守ることだと考えます。企業から病院への継続看護を目指したいと思い、転職を希望しました。
<自己PR例文>
■例文1:傾聴スキルを武器にする
病棟での業務を通して、患者への寄り添いや話を聞く大切さを学びました。また、多くの場合、話を聞くことで患者自身の課題が解決していきました。その人自身の課題点を見つけることができる質問や話し方には自信があります。この経験を産業看護師の仕事にも活かしたいと考えています。
■例文2:クリニックの経験をアピール
クリニックでは健康診断も実施していますが、現役世代の健康診断の受診率が低いと感じてきました。働いているうちから検診を受ける必要性を訴えたいと考え、産業看護師を目指しました。検診業務に携わった経験があるため、業務の流れの理解や説明・指導など自信があります。
今回は産業看護師の業務内容や転職のポイントなどを紹介しました。
あらゆる人とコミュニケーションを取りながら業務を企業のお仕事は、コミュニケーション能力が求められます。 また、デスクワークも多いため、基本的なPCスキルや事務処理能力も求められます。病院勤務と異なる部分が多く環境に慣れるまでに一定の時間が必要ですが、平日の日勤のみの勤務であることや比較的残業が少ないメリットから人気の職場となっています。 求人があまり世に出ていないため、人材会社経由で求人を紹介してもらうのもひとつの手です。
また、下記のいずれかの考えに当てはまる方には特におすすめの職場です。
1.一般企業でスキルやキャリアを積んでみたい方
2.予防医学やメンタルヘルスなどに興味がある方
3.人とのコミュニケーションや調整役にやりがいを感じられる方
4.夜勤なし・残業少なめ・土日休みの職場をお探しの方
産業保健や予防医療は今後も注目される分野であり、働く人々を支えることができるやりがいのある職種であるといえます。それゆえ人気の高い職種でもありますので、転職サイトを活用し、理想の就職先を探していきましょう。